苫米地英人(Dr.Tomabechi)さんの著書「イヤな気持ちを消す技術」のBook Reviewをしていきます。人が生きていれば、大小どちらにせよ必ずと言って良い程、悩みや不安があると思います。そしてそれは解決したと思えば、新たな問題が出て来たり、悩みの種が大きくなったりします。ポジティブな人であればこういった時に悩まずに解決できるかもしれませんが、多くの人(この理由は後述)は、イヤな気持ちを持ったまま生活しています。
もちろん、イヤな気持ちの全てが悪い訳ではありません。
ただ、必要以上に不安や恐怖を持ってしまうと、どんよりとした気持ちが続いて憂鬱になってしまったり、場合によっては心の病気になってしまう可能性もあります。一度こういった習慣や感情が続いてしまうと、中々抜け出せなくなってしまいます。
本書のイヤな気持ちを消す技術では、「こうなってしまった場合にどうやって克服していくのか」「そもそもなぜ人はネガティブな思考になり易いのか」「鬱の症状」についてなど、根本的な問題から、それを解決するにはどうしたらいいのか?がまとめられています。
人によっては本書に書かれている内容に疑問を持ったり、「そんなに簡単じゃない」と考える方も居ると思いますが、著者の苫米地英人(以下 Dr.Tomabechi)は認知(脳)科学者であり、心(脳)に関する専門家です。なので、「なぜ人がイヤな気持ちに支配されやすいのか?」を根本的に考えるには、脳の問題を外しては答えられないと言えます。
1.イヤな気持ちを消す技術の構成と主な内容
「イヤな気持ち」を消す技術
苫米地 英人
認知(計算)科学者、CMU(Ph.D)、実業家
フォレスト出版
2012年12月発売
B6判・256頁
定価1,650円(本体1,500円)
序章の「満たされない心、傷ついた心とは何か。」では、人間の脳はなぜマイナスの記憶を引きずってしまうのか、ポジティブな感情よりもマイナスの感情を記憶し易いのかについて解説しています。又、多くの人が強くしたいと思っている心についても、それを強くしたりするのはできないとされています。
第1章の「なぜイヤな記憶ばかり蘇るのか。」では、海馬と偏桃体によってイヤな記憶が強くなっり、弱くなったり仕組みについてです。ある出来事があった時に、これらの機能によって感情の増幅が起こります。登校拒否がこの事例として使われますが、登校拒否のメカニズムを理解する事で、学校の門に近づくだけで身体が震えたり、引き籠りになるのか分かります。
第2章の「記憶とは何か。それとどう付き合っていくか。」では、怒りの鎮め方についてです。怒りの感情が湧いて来た時に、IQを高め、一つ上のゲシュタルトを作る事で、怒りの感情を鎮められます。
第3章の「あなたの自我があなたを不幸にする。」では、TVなどのメディアによって私達の煩悩をコントロールされたり、エフィカシーまでも影響を受けてしまう事についてです。他人の欲しい物(煩悩)を自分の欲しいと勘違いさせられる事によって、満たされない欲求が高まってしまいます。これについては、第一にTVを捨てる事を推奨されています。
第4章の「悲惨な体験をトラウマにしない。」では、Crisis psychology(クライシスサイコロジー)についてです。これは危機管理プログラムの事で、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまった人の心を和らげるためのプロセスです。緊急時に平常心を保つための方法について解説しています。
第5章の「うつ病は一瞬で治る?」では、うつ病になってしまう人の特徴や、その治し方についてです。一番の特効薬として「全てを自己責任として考える」という考え方がまとめられています。又、エフィカシーの高い人や、「自分は凄い」と思っている人は、うつ病にならない(なりにくい)というのも、一つの特徴のようです。今の時代は、不安や恐怖といった感情も娯楽として楽しむというのも、興味深いかもしれません。
第6章の「イヤな気持ちから自分を解放するために。」では、人が抱く様々な情動を俯瞰して見る方法についてです。イヤな気持ちや嬉しい気持ちになった時に、抽象度を上げて前頭前野の活動を活発させる事で、それらの感情は情動に過ぎないと考え、喜怒哀楽さえも超えていきます。
2.イヤな気持ちを消す技術
人は嫌な感情を強く記憶する
不安や恐怖、ネガティブな感情だったりと、マイナスの感情というのは、特別に心が弱い人ではなく、「そもそも人間というのは嫌な気持ちを強く記憶する」というのが分かります。というのも、マイナスの感情や出来事というのは、それを覚えておく事で、次に失敗する機会を減らせるためです。
例えば、熱々のやかんを触ってしまい火傷をしたとしましょう。これは一般的に考えれば失敗ですし、痛みやネガティブな感情を伴ってしまいます。ですが、この嫌な出来事を記憶しておく事で、次に熱々のやかんを見た時に、「これを触ってしまっては危険だ。前回のような失敗はしたくない。避けよう」と考えられます。つまり、マイナスの感情や出来事を覚えておく事で、何度も同じミスを防ぐという機能をしています。
これは生物として必要な能力です。
もしこれを忘れてしまうと、さらに大きな危険を冒してしまったり、最悪の場合再起ができなくなってしまう可能性すらあります。だからこそ、嫌な感情や記憶というのは強く記憶できるようになっています。それとは反対にポジティブな感情というのは、嬉しい気持ちになったり、心を明るくしてくれますが、命に関わらなかったり生存本能とは、直結しない方が多いです。だからこそ、ポジティブな記憶よりも、嫌な気持ちの方が強く残り続ける事になります。
登校拒否のメカニズム
嫌な記憶を理解するためには、大脳辺縁系の中にある海馬と偏桃体について知らなければなりません。この両者は互いにくっついており、影響し合っています。やっかいなのは、嫌な記憶を引き出す際に海馬の情報を増幅させるのが、偏桃体になっている点です。拡張機のように、記憶した感情や出来事を大きくしたり、小さくします。
学校で嫌な事があったとしましょう。
加害者である人は本当に小さな事として捉え、周りの人もそれほど大きな出来事にしなかったとしても、被害者はそれを大きく捉えてしまう事があります。そしてそれは、最初は小さな火種だったとしても、側頭葉で記憶し、海馬と偏桃体によって、登校拒否になってしまう程、大きくなってしまう場合があります。さらに、その出来事を繰り返す夢を見たりして、やがて長期記憶になっていきます。
こうなると、トラウマになります。
一度トラウマになってしまうと、学校に行く以前に校門を見ただけでお腹が痛くなったり、震えが起きたりします。偏桃体は嫌な記憶を増幅させるので、仮に命が危険が無かったとして、次第に学校は危なくて、自分の生命が脅かされる場所にまでなってしまいます。こうなると、今まで通りに学校に行くのは困難で、登校拒否になってしまいます。当然ですが、誰も命の危険があると思う場所に好んで行く人は居ません。だからこそ、登校拒否というのは自己防衛とも言えます。
IQを高め怒りを鎮める方法
嫌な気持ちと同時に怒りの感情も厄介です。
日中に激しい怒りの感情の出来事があり、「夜にベッドに入ったのに寝付けずに怒りの感情が復活してきてしまった。」というのは、経験があると思います。強い感情が海馬と偏桃体によって増幅させられ、それが視床下部にまで伝わり、さらに自律神経が興奮し寝れなくなってしまいます。こうなってしまうと、すぐに眠るのは困難にってしまいます。
この時優位なのは、大脳辺縁系(海馬と偏桃体)です。
これを鎮めてやるには、前頭前野の活動が必要になってきます。前頭前野と大脳辺縁系はどちらかが優位になると、片方が収まります。ただし、前頭前野は大脳辺縁系の上位層なので介入ができます。(パソコンにあるフォルダの階層と考えれば分かり易いかもしれません。)実際に怒りを鎮める方法は、「なぜ怒っているのか完璧な論理的に考える」事です。できれば相手を憐憫に思う程、論理的に考え前頭前野を優位にさせます。こうする事で、大脳辺縁系が収まりリラックスした状態で眠りに入れます。(この方法は練習や訓練をするしかありません。)
鬱病になってしまう人
本書では鬱の定義として「ハッピーでは無い状態が続く事」となっています。なんとなく気持ちが晴れなかったり、嬉しい気持ちや楽しい気持ちを忘れてしまっていたとしても、軽い鬱と言えるかもしれません。ただ。本人が自覚しているか、していないかに限らず、鬱の状態というのは、「本人がその状態を納得してしまっている」「正当化している状態」とも言えます。
例えば、「家族が寝たきりの状態になってしまって看病を余儀なくされた」というケースがあった時に、「私は家族の面倒を見ているし、寝不足で仕事もうまくいかなくなってしまった。だから、気持ちが落ち込み鬱になっても仕方がないだろう。」というように、自分を納得させるような訳を考え、鬱である状態を正当化します。これが無意識であったとしても本人が納得し、その状態を正当化させています。もちろん、家族が寝たきりになって、あなたが面倒を見るのは大変ですが、それが鬱に直結するとは限りません。反対に、どれだけ逆境に居ようと鬱にならない人もいます。
それが、「自分を納得させていない人」です。
自分で納得していないので鬱になれるはずがありません。他人には強い人に見えるかもしれませんが、本人はそうも思ってすらいないでしょう。これが鬱になってしまう人と、そうでない人の違いです。社会人で鬱になってしまう人は、そのほとんどが仕事に関係すると本書で綴られています。中には友人関係や家庭の事で鬱になる方も居るかもしれませんが、仕事が中心というのは納得できるのはないでしょうか。
解決策として、仕事で悩んでいる場合は「ハッピーでは無い状態が続いている」ので、さっさと辞めてしまうか、楽しいと思うまでスキルを身に着けるなり、出世するしかありません。ただ、楽しい状態が一番の特効薬なので自分が楽しいと思うような仕事は何か?考えてみると良いと思います。その仕事であればハッピーな状態になるので、鬱も解消される事になります。
情動を娯楽にコントロール
悲しいと思ったろり怒りの感情が強くなってしまうと、偏桃体や大脳辺縁系が優位になってしまい、理性的に物事を考えられなくなります。
誰しも経験があるのではないでしょうか?
急に怒りの感情が湧いてしまって自分でも制御できない状態です。こうなってしまうと理性が働かなく、大きな声を出したり、物に当たったりして自分でも驚くような行動をしてしまう事があります。まさに、理性的では無くなってしまった時です。あとから冷静になって考えてみると、「なんて馬鹿な事をしたんだろう」と思うかもしれません。自分一人が被害を受けるならば良いのですが、この感情を第三者に使われてしまう状況(宗教、占い師、投資詐欺)などに簡単にはまってしまいます。こうなってしまうと、本人だけで抜けるのは非常に難しいです。
それだけ、情動が優位な時は危険なのです。
こういった場合の対処として、情動を俯瞰し娯楽としてコントロールする方法がベストです。喜怒哀楽の感情を娯楽と認識し、それを第三者の視点のように俯瞰します。これだけで前頭前野が優位になるので、おかしな行動をしてしまったり、第三者にコントロールされたりする可能性は低くなります。
リラックスして趣味に取り組む
本書に嫌な気持ちを消す方法はいくつか載っていますが、これを読んでいるあなたが一番簡単に前頭前野を優位にし、精神的な安定を保つ方法は、「リラックスして趣味に取り組む」これかもしれません。これなら、誰にでもできて、再現性が高いのではないでしょうか。不安や恐怖に支配されてしまっている人の共通点として、前頭前野を優位にさせる二つの要素が足りません。
前頭前野を優位にさせるには、
- リラックス状態
- 抽象空間の興味
これらになります。リラックスしている状態というのは、IQが高まり不安や恐怖という感情が消えていきます。反対にリラックスしていない状態は交感神経が優位で、大脳辺縁系が優位です。人によってリラックスできる方法は違うと思うので、それを見つけると良いと思います。
次に趣味についてですが、嫌な気持ちを続けてしまう人は、その世界(抽象空間)を自分が楽しいと思う世界に変えてあげます。好きな趣味というのは前頭前野を使って自分の抽象世界を作る事でもあるので、どうしても前頭前野を使うしかありません。仮に国内旅行が趣味だとすると、何で行って、どのような場所に行くのか、その場所の名産物は何か、どのルートで回ったら沢山観光できるのか、現地の人の普段の生活やその土地の歴史などについて調べても良いかもしれません。
これを考えるだけ、国内旅行が趣味の人は楽しくなるはずです。
3.イヤな気持ちを消す技術を読んで感想
不安や恐怖というようなネガティブな感情も人が持っておくべき感情であり、それをいかにコントールするのかが重要だと分かります。あまりにも強く持ってしまうと、鬱になったり心がやられてしまいますが、その情動を娯楽にしてしまったり前頭前野の介入によってコントールできるのも事実です。といっても、怒りの感情を鎮めるのは非常に難しいので、何度も練習するしかありません。(怒りの感情が湧いた時に本書を思い出すだけで効果はあるはずです。)
本書を一度読むだけだと、脳の用語が多く慣れるまで時間が掛かるかもしれませんが、何度か読むと方法論が深く理解できるかと思います。
中には本当に全ての事が嫌になってしまった時は、「リラックス状態」と「抽象空間の興味」をまずは試してみるのが一番でしょう。余計な事は考えずに、お風呂や森林にでも行ってリラックスできる環境を考え、あとは十分に趣味のできる時間を確保し、不安や恐怖という感情から離れる。その時にふとアイディアが生まれるかもしれませんし、今まで気付かなかった解決策が思い浮かぶ事があるかもしません。
不安や恐怖は無いにしろ、「頭の中がなんとなくモヤモヤする」という時は、本書も推奨していたTVを捨ててしまうのが手っ取り早いです。TVは不安や恐怖を植え付ける装置(言い過ぎかもしれませんが)それだけ感情ネガティブになってしまう可能性があります。漠然と見ているだけでも映像側の他人に介入されますし、IQも下がります。
結果的に百害あって一利無しと言えます。
4.まとめ
本書のタイトルが「イヤな気持ちを消す技術」という事だけあり、イヤな気持ちを消す技術(方法論)を知った所で、使わないと心は軽くなりません。ネガティブな感情が起こった度に練習して、身に着ける必要があります。
それこそが「技術」だからです。
読んですぐに実践できるというより、「繰り返して自分のスキルにする。」この考え方が重要だと感じました。感情や情動も脳機能の一部と考えると、他人がその状態になっている時に、「大脳辺縁系が働いているな」というような余裕も生まれる事もあります。こうやって俯瞰してみれば、自分の身に起こった時の対応もし易いと感じます。
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