苫米地 英人(とまべち ひでと)さんの著書、営業は「洗脳」の要約とBook Reviewをしていきます。職種によりますが、多くの企業には営業部署と呼ばれる自社の商品やサービスを購入(知って)もらうための部署が存在します。部署といっても細かくは個人で動くものなので、人によっては何件も契約を取れるような人材もいれば、全くといっていいほど契約を取れないような人も存在します。
どちらも同じ商品やサービスを扱っているのに、これらの差はどこにあるのでしょう。
「自分は営業職には向いていない」というのは簡単ですが、実際には「営業職に向いていない人はいない。」むしろ、誰にでもできるのが営業職という仕事なのです。
営業で結果を出すには、気合いや根性という人もいるでしょうし、ノウハウやテクニックという人もいます。営業は「洗脳」では、営業現場の臨場感空間を自分が支配し、相手の内部表現を書き換えることによって商品やサービスを買ってもらったり、何度もリピートをしてくれるような顧客を増やす方法がまとめられています。
内部表現が書き換えられるということは、売っているものに対し一種のストーカーになってくれるということです。売っているものがなんであれ、それを考えられずにはいられない状態といえます。こうなってしまえばこちらが売り込まなくても商品は売れていきますし、何度も購入してくれるお得意様になってくれます。
Contents
1.営業は「洗脳」の概要
営業は「洗脳」
苫米地 英人
認知(計算)科学者、CMU(Ph.D)、実業家
サイゾー
2009年1月発売
B6判・197頁
(本体1300円+税)
2.営業は幸せな未来を売る仕事
ここで疑問です。営業職をしている人は、何を売っているのでしょうか?
保険や金融商品、日常雑貨や車の販売など職種によって、売っているものはそれぞれ違います。単価も高額なものから、低額なものまで世の中には無数と呼べるほどの商品で溢れかえっています。よくある常套句として、「自分はこれだけ商品のことを詳しく勉強しているから売れるに違いない!」と考えていたり、「自分磨きをするほどお客様に信頼されるからジムに通っている。」など、自己投資をする人もいます。これらも間違いではありませんが、これでは営業成績はあがりません。
なぜならお客様が望んでいるものは、商品やサービスではなく、それを手に入れた(手にした)際の「幸せな未来」だからです。商品というのはあくまで二の次でお客様は基本的に、自分の幸せにしか興味がありません。自分自身に置き換えてみるとわかるのですが、本当に欲しい所品を見つけたときというのは、すぐに買ってしまうか、店を出た後もずっとその商品のことを考えていたり、ふとした瞬間に思い出してしまうものだからです。
人によっては、夢にでてくることもあるでしょう。
この状況というのはつまり、自分がそれを手にした際の未来がどれほど素晴らしいのか、頭の中でずっとシュミレーションしている状況にあります。未来が素晴らしく幸せであるほど商品への執着は強くなり、購入してその未来を手に入れるまでずっと続きます。もちろん、商品の価格よりも自分の未来の幸せの方が大きくなければいけませんし、同等の価値でなければなりません。
商品の価格が未来の幸せよりも大きいと、あなたは商品を買わない選択をするか、他の幸せなものを見つけ出します。
3.内部表現の書き換えと無数のストーリー
「お客様の幸せな未来を売ること」こそが営業職の仕事というのは分かりましたが、このお客様というのは、個人によってアプローチが全く違ってきます。
あなたが車の販売をしているとして、子育て中の主婦に売るときのストーリーと、釣りが趣味な独身男性へのアプローチが変えた方がいいのは安易に想像がつきます。前者であれば、子供を乗せているときに安全でチャイルドシートを積める車を望んでいるだろうし、休日には皆で大型ショッピングモールにお出かけできるような車を望んでいるはずです。間違ってもスピードが速い、ドライブ優先車を購入しようとは考えていないでしょう。
それに比べ後者であれば、休日に海や川に釣竿を付けて、遠出できるような車をお勧めするべきですし、車中泊できるようなタイプを勧めても幸せな未来を創造してもらえるはずです。「ストーリーブランド戦略」要約&レビュー:ブランドを物語化する方法も参考にしてください。
そのためにはまず、雑談などで相手がどのような未来を望んでいるのか、相手にとってのストーリーはどのように考えればいいのか知る必要があります。これこそが、営業現場での臨場感空間を支配して、相手の内部表現を書き換えてしまう技術になります。雑談で相手の好みを知り、未来の幸せが得られるという想像をしてもらい、そのために自分の売っている商品を手に入れることでそれが実現できると思えれば、その商品を買わずにはいられなくなります。
この幸せな未来がリアルなほどお客様の反応率は高くなります。
簡単にいえば、現実世界は居心地が悪いように思ってもらい、未来の商品を買ったときが幸せであると思ってもらう技術です。(商品も素晴らしいものでなくてはいけません。)こうなると、お客様は無意識のうちにどうしてもそれを手に入れたくなり、居心地のいい未来へ行こうとします。
ストーリーを使う際は言葉で説明するよりも、写真や映像の方が強力です。「テレビは見てはいけない」要約&レビュー:テレビ依存からの解放と危険性にあるように、テレビCMはこういった仕組みをうまく使ったコンテンツです。
相手の内部表現を書き換え、幸せな未来をリアルにイメージしてもらうのに成功すると、営業の仕事は終わりです。あとは勝手にお客様がそれを手に入れる手段を考えだし、資金調達をしてくれます。現金なのかクレジットカードなのか、それともローンにするべきなのか、あなたが指示しなくてもいい状態になります。
4.「ひとめぼれの技術」
相手が心を開いてくれるタイプならばいいのですが、中には心の壁を作られて雑談や会話すらもままならないという状況もあります。相手がどんなものを望んでいるのか心を開いてくれない限りは、こちらも未来のストーリーを提示できませんし、商品を買ってもらうことはできません。
そのときの技術が、「ひとめぼれの技術」です。
心を閉ざしてしまっている相手をオープンマインドになってもらい、自分に好意を持ってもらうためのテクニックになります。(営業だけでなく恋愛や友人関係)にも活用できます。手順は3つあって、
- 相手の目を動かす
- 目が動いているときに、好感(理想)を思い浮かばせる
- 自分の顔を見せる
という手順になります。
一番難しいのは「相手の目を動かす」という手順ですが、相手の右目、両目の間、左目というように見る場所を変えていきます。相手の視点を誘導し、目を動かしているときに好感を持っているタイプを思い浮かべさせることができれば、目の前にいる自分に好意が移っていきます。このテクニックを使っている際は、自分自身ができるだけ幸せな感情と、気持ちいい体感を感じていることが重要です。
注意しなければならないのは、もし相手が目を動かしているときに、嫌な記憶だったり、嫌いな人を思い浮かべてしまうと、あなたが嫌われてしまうことになってしまいます。
5.脳に受け入れられる声の周波数
人間の脳には、無意識に相手の話を聞き入れてしまう周波数があり、これを有効的に使い分けることで商品を買ってもらいやすくなります。
その方法は相手(聞き手)よりも2~3段階低く、ゆっくりな声で話すことです。人間は初対面や面識の浅い人に対し、その人が攻撃的なのか、防御者なのか無意識的に判断します。無意識的の判断なので、ここで攻撃的と判断されれば話を聞き入ってもらいづらくなります。商品を買ってもらいたいお客様や仲良くなりたい相手に対し、いかに「自分はあなたの味方ですよ」と思ってもらえるかが重要になります。
多くの人にとって最大の防御者は、父親です。
相手の無意識で、子供の頃の父親のトーン(声の低さとスピード)と似てるようだと思ってもらえれば、強い安心感を持ってもらえます。(同様に母親も防御者ですが、父親の方が防御者としての意識は上の場合が多いです。)ただし、相手の父親をイメージして声色を真似るのではなく、相手が普段聞きなれている声のトーンよりも低く話すことが重要です。
注意すべきなのは、初対面の人と話すときに、最初から低くゆっくりな声で話すのはなく、最初の雑談はやや高めの声で話しておいて、相手の情報を把握し商品を販売する時になって、低い声にする方が効き目が強くなるということです。
6.外見は相手の未来の幸せに合わせた演出
多くの営業職の人にとって、外見というのは大きな意味を持つものになります。
単純にだらしない服装でセールスをされるよりも、きちっとアイロンが掛かっているようなスーツでセールスされた方が、申し込む率は高くなるでしょう。よく言われる、「見た目が9割」ではありませんが、外見というのはそれだけで成約率に影響するほどの意味を持ちます。
保険のセールスならば清潔感があってきっちりしたスーツで、髪も整っているのがベストでしょうが、もしあなたが大好きな山キャンプをコンセプトにした店を営んでいたとしたらどうでしょうか?恐らく、スーツやきちっとした服装ではなく、作業着で髭も生えていて髪がぼさぼさの方が、キャンプを熟知したことをイメージできるのでベストな選択になります。お客様もこういった服装の方が、「自分の知らないキャンプの知識を詳しく教えて貰えそう」と思うはずです。
つまり、外見は相手の未来に合わせた幸せの演出に過ぎません。
どこかでは最適な外見であっても、場所によっては不適格な外見であることが往々にあります。相手が高級ブランドに身を包んだ服装がしたいという未来ならば、自分が高級ブランドを身に着けて、それにふさわしい商品を売ってあげれば、相手は喜んでその商品を買ってくれます。
7.無意識に働きかけるモチベーションアップ法
営業職だけではありませんが、モチベーションというのは夢や目標を達成するうえで非常に重要になります。同じような夢を持っていたとしてもモチベーションがある人には敵いませんし、やる気も湧かないためです。「コンフォートゾーンの作り方」の要約&レビュー:自己変革の目標達成法にあるように、人にはコンフォートゾーンが存在します。これをうまく活用することこそが、無意識で目標を達成する方法です。
無意識を使った、モチベーションアップ法は簡単で、「目標(目的地)となる未来の場所から逆算をして、現在の自分があるべき姿」をイメージするだけです。
1年後に、「起業して月収100万円を稼ぐようになる」と目的地を決めれば、今の自分に足りないものは色々と見えてきます。最初にどんなビジネスモデルで月収100万円を稼ぐのか決める必要がありますし、足りないスキルやマーケティングなどの勉強を始めるかもしれません。また、それに付随する持ち物や、準備品を揃える段階でしょう。
これらはすべて、目的地を決めて今あるべき姿を逆算した結果です。
目標(目的地)と今あるべき姿をイメージすればするほど、無意識は現状との違いを認識し、未来の自分(あるべき姿)に急いで戻ろうとします。この差異(ギャップ)が大きいほどエネルギーは大きくなり、現状との不満をなくすように無意識が連れていってくれます。モチベーションをアップさせるには、未来から逆算した今あるべき姿をコンフォートゾーンに設定すれば自動的に上がっていきます。
8.会社内で従業員は鉛筆同然
営業職にとって、会社とは一体誰のためのあるものでしょうか?
お客様だったり、従業員やステークホルダー、社会のためと思っている人が大半ですが、会社という組織は「株主」のためにあります。やや耳の痛い話になりますが、資本主義の特性上これが決まりです。会社は株主のためであって、それを運営するのが代表取締役などの人たちです。
なので会社が損失を出したとしても一般の個人が追及されることはないですし、経営に関して責任を問われることもありません。企業において社員というのは取締役のことを指すので、一般個人は従業員ということになります。従業員は商法上、備品(鉛筆や消しゴム)などと同じ意味合いをもちます。
「従業員=鉛筆」という図式はやや大げさに聞こえるかもしれませんが、従業員が望まれていることは、一定の給料を払う代わりに最大限の利益を生み出すように働いてもらうことではないでしょうか?ここまで露骨ではないにしろ、企業はなるべく最小の給料で、最大限の利益を生み出すような人材が欲しいのは言うまでもありません。
9.企業内創業は無意味
一時期、企業内創業が流行りました。
企業内創業とは、一般の従業員が「こういったビジネスモデルを考えたので、会社内で部内を立ち上げ起業をする」というものです。自分は給料を貰いつつ、資本金に見せかけた予算で起業できるので、モチベーションも高くなるでしょう。安全な場所は確保しつつ、起業できるので良いこと尽くめのように感じます。
ただし、結果的にこれは失敗しました。
なぜなら、「リスクのない起業(ビジネス)は存在しない」という資本主義の原則から外れていたためです。リスクがあるからこそ、それをどうやって回避するのか?どのように展開していけばいいのか?など、考えるようになります。これが給料が保証されていて、「自分は安全な場所におり、何かあっても損をするのは会社」という状況であれば、本当のビジネスはできません。
本気でやっている人たちに勝てないからです。
どうしても起業したいのであれば会社を辞めて始めるか、週末起業などして時間を生み出すしかありません。
10.営業は「洗脳」を読んだ感想
営業は「洗脳」では、「相手が望んでいる幸せな未来」に働きかけることで、商品やサービスの購買意欲を高め、セールスするテクニックがまとめられています。商品という物質(無形)なものだけでなく、恋愛でも同じように結果が得られます。相手が望んでいるであろう未来の生活や生き方を自分なら叶えてやれると思ってもられば、それだけで相手は好感を抱いてくれます。
商品やサービスを売っている営業職の人たちの中には、その商品の細かいスペックや性能などを細かく説明する人がいますが、これでは私たちの気持ちは動きませんよね?
なぜなら、そんなものに興味はないからです。
未来に得られるであろう自分の幸せこそが、影響でき洗脳が安易なものになります。こうやって考えてみると、テレビやYouTube、SNSなどの媒体は非常に有効な手段となりえます。なぜなら、自分がまったく意識をしていない、欲しいとも思っていない商品を「この未来を手に入れることこそがあなたの幸せ」「これを手に入れないと、こんな不幸なことが起きる」という、洗脳すらも可能だからです。
こういった洗脳社会は、今後も加速していきます。
「現代洗脳のカラクリ」要約&レビュー:社会に潜む洗脳の仕組みと対策が示すように、洗脳を防ぐ術を持っていないと、誰かが作った臨場感に簡単に入ってしまうので、あれを買ってはこっちを手に入れるというように、振り回されるのを否めます。洗脳する側と洗脳される側、両者の術を知っておくことが重要になってきます。
11.まとめ
営業は「洗脳」を読むと、営業という仕事は誰にでもできるが、人によってその結果は大きく異なる仕事というのが分かります。とうぜん、これらのテクニックを使って悪用による影響や顧客の信頼を失うリスクについても考えなければいけません。営業活動を行うならば、倫理観を持ち、顧客の利益を最優先に考えることが重要であると再認識できます。
- 営業は未来を売る仕事
- 相手に合わせた幸せなストーリー
- 受け入れられる声の周波数
- 外見は相手の未来に合わせた演出
というのを極めれば、顧客との信頼関係を構築し、より持続的なビジネスを築くことができます。最終的には、洗脳術に頼らずに相手のニーズに真摯に向き合うことが重要になってきます。
コメントを残す